従来細胞のATP減少は細胞死と並行して起こる現象であると考えられてきた。しかし、我々が船底塗料等に使用される環境化学物質トリブチルスズ(TBT)の神経毒性を研究する過程で、ATP減少が細胞死に先立つて起こり、ATP減少に伴つてAMP-activated protein kinase(AMPK)活性化が重要な働きをしていることが示唆されるデータを得た。 環境化学物質の中でも特に農薬はATP産生低下を主要なメカニズムに持つことから、TBTとのメカニズムの相達について、ラツト大脳皮質初代培養にて検討を行った。その結果これまでに報告のない多くの農薬の他、高濃度ゲニステイン刺激において、神経細胞死に先立ってグルタミン酸の細胞外放出が認められた。 ATP産生を低下させる各種農薬のメカニズム比較は現在検討中であるが、例えばTBTと同様のスズ化合物である酸化フェンブタスズがATP減少、細胞間隙グルタミン酸濃度上昇というTBTと類似のメカニズムで神経細胞死を引き起こすのに対して、脱共役剤として作用するピリダベンはATP減少が僅かしか認められなかった。またその他のメカニズムについても酸化フェンブタスズのそれとは異なっていた。
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