本年度は、まずジエチルスチルベストロール(DES)の胎仔期暴露による脳かく乱作用の修復に関与する「エンリッチ環境」の環境因子の同定を試みた。胎仔期DES暴露マウスを作製し、離乳後、オスの仔マウスを無作為に以下の6群(スタンダード環境、広い環境、運動刺激の環境、認知刺激の環境、視覚刺激の環境、体性感覚刺激の環境)に分けて3週間飼育し、受動的回避反応試験により、学習機能を評価した。その結果、スタンダード環境に比べ、広い環境で飼育したマウスは学習機能の向上が認められ、DES暴露による学習障害の修復にはエンリッチ環境の中でも広い環境が関与していることが示唆された。次に、広い環境とエンリッチ環境の違いを比較検討したところ、受動的回避反応試験の獲得試行における反応潜時に違いが認められ、スタンダードやエンリッチ環境に比べ、広い環境で飼育したマウスの潜時は長いことがわかった。飼育ケージの床面積の広い方が不安になりやすいという既報や、本研究の獲得試行で観察された脱糞行動の様子から、エンリッチ環境に比べ、広い環境で飼育したDES暴露マウスは、情動が不安定になっている可能性が考えられた。以上のことより、環境ホルモンDESの脳かく乱作用の修復には、エンリッチ環境のような複合的な環境が重要であることが示唆された。次に、このエンリッチ環境での飼育により、神経活動マーカーの脳内発現は変動するのか否か、変動するとすればそれは、飼育期間のどの時期で最も顕著であるのかについて検討したところ、エンリッチ環境飼育によるBDNFおよびc-fosの海馬における発現レベルの変動は、1週間および2週間の飼育では、スタンダード環境に比べ有意ではないが、3週間の飼育により有意な変動を認めた。このことから、エンリッチ環境飼育によるDES暴露マウスの脳かく乱作用の修復作用は、その飼育期間に比例して増大する可能性が考えられた。
|