研究概要 |
平成19年度は2種類の子宮癌細胞と1種類の乳癌細胞を用いて、培地へのエストロゲン様化学物質の添加がDNAメチル基転移酵素Dnmt1、Dnmt3a、Dnmt3bの発現に与える影響について検討した。エストロゲン作用を持つ物質として、天然エストロゲンの17βエストラジオール(E2)および合成エストロゲンのジエチルスチルベストロール(DES)を使用した。1種類の子宮癌細胞ではDNAメチル基転移酵素の発現に変化は見られなかったが、もう1種類の子宮癌細胞では高濃度(10〜20μM)のDESに曝露されたときにDnmt3a、Dnmt3bの発現低下が見られた。一方、乳癌細胞では幅広い濃度(10pM〜10μM)のDESへの曝露でDnmt1、Dnmt3bの発現が上昇していた。乳癌細胞ではE2への曝露でも同様な遺伝子発現変化が観察されたが、子宮癌細胞ではE2への曝露では遺伝子発現変化は観察されなかった。エストロゲンレセプター阻害剤のICIl82,780を培地中に加えたところ、これらの遺伝子発現変化が部分的、または完全に阻害された。 以上の結果より、子宮癌細胞、乳癌細胞の培地中にE2、DESを加えるとDNAメチル基転移酵素の発現が変化する場合があることが明らかとなった。また、細胞によって応答がなかったり、発現が変化する遺伝子の種類が異なったり、E2とDESへの応答が異なったり、発現の増加・減少が逆転している現象を観察できたことから、今後遺伝子発現変化のメカニズムを解明する上で有用な情報が得られたと考えられる。
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