ヒト腫瘍抗原MUC1プラスミドDNAの皮内投与により、MUC1発現マウス大腸癌細胞の原発巣における増殖と肝転移がともにCD4+T細胞依存的に抑制され、抗腫瘍活性に関わる分子が臓器により異なることをすでに明らかにしている。そこで、臓器特異的なエフェクター機構を明らかにすることにより、癌の発生する臓器や転移先臓器に適した抗腫瘍免疫療法を開発することが将来的な目標である。 本年度は、盲腸でエフェクター分子として働くことが示されているFasLに変異を持つgld/gldマウスを用いて、臓器特異的にエフェクター分子を発現する細胞の同定を試みた。 gld/gldマウスにMUC1 DNAワクチンを皮内投与し、MUC1特異的な免疫応答がC57BL/6マウスと同様に生じるかどうかを、MUC1特異的抗体の産生とMUC1特異的T細胞応答により確認した。続いて、ワクチン投与マウスにMUC1発現マウス大腸癌細胞を移植した所、脾臓内投与肝転移モデルではワクチン効果が認められるのに対して、盲腸漿膜下への移植では、ワクチン効果が認められず、FasLが盲腸でエフェクター分子として働くことがFasL変異マウスを用いて示された。そこで、ワクチン投与gld/gldマウスからCD4陽性T細胞を単離し、MUC1発現マウス大腸癌細胞と混合してC57BL/6マウスの盲腸に移植したところ、盲腸での腫瘍増殖が抑えられた。一方、ワクチン投与C57BL/6マウスからCD4陽性T細胞を単離し、MUC1発現マウス大腸癌細胞と混合してgld/gldマウスの盲腸に移植したところ、盲腸での腫瘍増殖は抑えられなかった。以上より、盲腸での抗腫瘍活性に関わるFasLが、CD4陽性T細胞ではないことが明らかとなった。臓器特異的なエフェクター機構は、癌の発生する臓器や転移先臓器の微小環境により規定されることが示唆された。
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