生体内には、ある特定のビタミンと特異的に結合するタンパク質が存在する。それらの内因性タンパク質は結合したビタミンを生体内に保持するとともに、標的とする組織に効率的かつ選択的に輸送することから、それらのビタミン結合タンパク質は生体が獲得した内因性ベクターであると捉えることができる。 網膜は視覚機能を司る重要な組織であるが、その機能が正常に発揮され、かつ維持されるためには、ビタミンA、ビタミンC、ビタミンEなどのビタミン類を血液中から網膜へと取り込む必要がある。従って、この輸送システムを利用することによって、網膜に効率よく薬物をデリバリーできる可能性が考えられる。 小児期に発症する網膜芽細胞腫の治療は原則として眼球摘出であるが、近年では、眼球を温存するために、抗がん剤による全身化学療法が行われている。そこで本年度は、全身的に投与した場合においても、網膜芽細胞腫で選択的に抗腫瘍効果を発揮させるためのベクターの探索とそのDDSに向けた応用について解析した。 ヒト網膜芽細胞腫由来Y79細胞における各種エンドサイトーシスレセプターの発現をRT-PCRによって解析した結果、腎近位尿細管においてレチノール結合タンパク質の取り込みに重要であるメガリンmRNAは検出されなかった。一方、アルブミンをリガンドとして認識するキュビリンmRNAの発現が認められた。また、Y79細胞におけるアルブミンの細胞内取り込みは、温度依存性やエネルギー依存性を示すと共に、検討した数種の高分子リガンドの中で顕著に高い取り込みクリアランスを示すことが認められた。さらに、光感受性物質chlorin e6を結合したアルブミンの細胞内取り込みに温度依存性が観察されるとともに、光照射によって細胞障害活性が著しく高まることが観察された。 以上、Y79細胞を用いた解析によって、アルブミンをキャリアーとすることで網膜芽細胞腫に比較的選択的かつ効率的に薬物をデリバリーできる可能性が示唆された。また、Y79細胞で観察されたアルブミンのエンドサイトーシスは、アルブミンがレチノール(ビタミンA)と結合することから、網膜におけるその生理学的意義を考える上でも重要な知見になりうるものと思われる。
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