研究概要 |
Plasmid DNA(pDNA)のような非常に巨大な高分子が臓器表面から取り込まれるのみならず、コードした遺伝子が発現することは生物学的に非常に興味深いところである。その遺伝子導入機構の解明は、細胞の機能を明らかにする上で、また、より効率の高い遺伝子導入法を合理的に開発する上で、有益な基礎情報となり重要である。昨年度において、腹腔内臓器表面からのpDNAの細胞取り込み機構を解析したところ、肝臓表面においてはファゴサイトーシス、胃漿膜表面においてはマクロピノサイトーシスが重要な取り込み経路であることが示唆された。今年度は、さらに胃について取り込み機構を詳細に解析した。pDNAの胃漿膜表面からの取り込みは、アクチンダイナミクス(アクチンの再構成、ミオシンによる収縮)の制御を受けていることが明らかとなった。アクチンダイナミクスを制御しうるRho family GTPases (Rho, Cdc42, Rac)の上流で働くPI-3K, Src, Sykの3つのキナーゼの関与も示唆された。さらに、Rho family GTPasesの中でも、Rhoの関与は低い一方で、RacがpDNAの細胞取り込みに重要な役割を果たしており、その下流のPAK, WAVEを制御することで、pDNAのマクロピノサイトーシスによる取り込みが起こることが示唆された。以上、pDNAはRac介在性マクロピノサイトーシスにより細胞内に取り込まれ、遺伝子発現に至ることが明らかとなった。このことは、今後、遺伝子導入効率を改善する上で、有益な基礎的情報となりうる。具体的には、マクロピノサイトーシスの促進剤を用いることで、遺伝子導入効率の改善が期待される。また、遺伝子発現に至らない細胞における問題点の抽出にも繋がるものと思われる。
|