RNA干渉技術を難治性疾患の治療に繋げる上で、in vivoにおけるsiRNAデリバリーシステムの確立の重要性が一段と増している。本研究の目的は、siRNA全身投与によるがん治療を実現しうるsiRNAデリバリーシステムを開発することである。本研究では、免疫応答およびがんの増殖や血管新生などに関与するmammalian target of rapamycin(mTOR)をターゲット分子として選択し、がん治療を目指したsiRNAデリバリージステムの構築を試みる。近年度までに選択的にがんに集積性を示すsiRNAベクターの開発を行い、一方でsiRNAベクターを含むナノキャリアの繰り返し投与時に誘導される免疫応答(ABC現象)の機構解明を実施してきた。ABC現象とは、ナノキャリア繰り返し投与により、2回目以降に投与したナノキャリアが血中から速やかにクリアランスされる事象を指す。本年度は「治療標的細胞におけるmTORノックダウンの効果」ならびに前年度から継続して「ABC現象の機構解明」に関して研究を行った。まず、これまでに開発したsiRNAベクターにmTORに対するsiRNAを搭載し、血管内皮細胞増殖因子等で刺激したヒト臍帯静脈血管内皮細胞(HUVEC)にトランスフェクションした。その結果、新生血管のin vitroモデルとして用いた活性化HUVECにおいて効率的なmTORノックダウンが生じ、それによりHUVECの細胞増殖が有意に抑制された。一方、免疫不全マウス等を用いてABC現象に関する研究を行った。その結果、ABC現象は抗原特異性が低いIgM抗体が一過性に産生されることによって生じ、その際二ナノキャリアはTI-2抗原としてB細胞に認織されていることが示唆された。次年度は、mTOR-siRNAを全身性デリバリー技術によってがんに送達し、その有効性を明らかにする計画である。
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