平成19年度においては、アデノウイルスベクターの効率的遺伝子発現に関与する核移行や転写活性に必須のウイルス側の因子を同定するため、アデノウイルス受容体(CAR、インテグリン、ヘパラン硫酸)との結合領域をそれぞれ改変したAdベクターを作製した。その結果、ヘパラン硫酸と結合するファイバーシャフト部分を改変する事で、アデノウイルスベクターの効率的遺伝子導入効率が阻害され、細胞内におけるウイルス動態が変化していう可能性が示唆された。そこで、本年度は組み換え型ファイバーシャフト蛋白質を大腸菌により作製し、シャフト蛋白質単独での機能について、詳細な検討を行った。その結果、ファイバーシャフト蛋白質は培養細胞における取り込み活性を上昇させることが明らかとなった。また、マクロピノサイトーシスにより取り込まれることが知られている蛍光物質の取り込みを、シャフト蛋白質が上昇させていたことより、アデノウイルスファイバーシャフト蛋白質は細胞膜における取り込み活性の上昇を誘導すると考えられる。また、この取り込み活性の上昇機能を遺伝子治療研究に応用することを考え、レポーター遺伝子を搭載したプラスミドとプラスミドトランスフェクション試薬とを細胞に作用させ、同時にシャフト蛋白質を加えることで、遺伝子発現効率が約10倍上昇することを明らかとした。 これら結果は、アデノウイルスベクターの効率的遺伝子導入効率に関与する因子を同定し、新たな遺伝子導入ベクターの開発に貢献できる結果であると考えられる。今後、これらのデータをもとにさらなる効率的遺伝子導入と共に安全性を向上させた新規ベクターの開発を行う。
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