がんの化学療法において、抗がん剤の微粒子化は腫瘍部位に薬物送達できるため、有効性を高め、副作用を軽減する方法として期待されている。腫瘍組織の特性により、リポソームのような脂質微粒子の血中滞留性を向上させることで、受動的に腫瘍組織に集積させることが可能であるが、さらに治療効果を高めるためには、薬物の作用点であるがん細胞内に送達させる必要があると考えられる。そこで、細胞膜透過能を付与するオリゴアルギニンペプチドで微粒子を修飾し、リポソームを効率よく細胞内に送達させることを考えた。また、オリゴアルギニンペプチドは塩基性を有し、リポソーム表面を正電荷に帯電させるが、正電荷を有するリポソームは腫瘍の血管内皮細胞への分布が高まるとの報告があり、腫瘍の血管系を障害して血流を抑制し、腫瘍増殖を抑制することが考えられる。そこでまず、抗がん物質カンプトテシンを封入した正電荷リポソームを用い、腫瘍血管の透過性を評価した。担がんマウスにリポソームを尾静脈内投与し、治療前後の腫瘍におけるガドリニウム造影剤の移行性をDynamic contrast enhanced MRIで観察し、腫瘍血管の機能によって評価した。リポソームを投与したマウスでは腫瘍増殖の抑制が見られたが、無処置の腫瘍と比較して腫瘍の血管透過性に変化は見られなかった。そこで、リポソームの血中での安定性を検討したところ、リポソーム自身は比較的高い血中残存率を示したが、カンプトテシンの血中濃度はそれと比較して非常に低い値となった。よって、封入したカンプトテシンがリポソームから放出されて離れてしまうために、十分量を腫瘍に集積させることができなかったと推測した。以上の結果から、リポソームに付与した機能性を発揮させるためには、薬物の性質に合わせてリポソームの薬物保持性を改善し、より多くの薬物を腫瘍部位に送達させることが必要であると考えられる。
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