研究概要 |
研究の平成19年度の目標は,in vitro,in vivoの実験系で,PI3Kの活性化機構(PIK3CA遺伝子型,PTENの発現,ErbB3の活性化,他のRTKの活性化)を解明しtrastuzumab感受性との関係について明らかにすることであった。現時点では,in vivoの実験には着手できていないが,in vitroの実験系で一定の成果がえられた。 我々は,8種類のErbB2遺伝子変異を有する細胞株を用いて実験を行い,比較的感受性を示す4株と比較的耐性を示す4株とを生化学的に比較した。 まず,得られた知見としてPIK3CAに活性型変異をもつ細胞株は比較的trastuzumabに比較的抵抗性を示した。生化学的には,耐性株では,trastuzumab作用下にもErbB3とPI3Kの下流分子であるAktのリン酸化が保たれていることが明らかとなった。その他のRTKの関与については,phospho-RTK arrayを用いて,耐性株における各RTKのリン酸化を評価した。しかし,耐性を説明する有意なRTKの存在は示唆されなかった。これらの結果から,trastuaumabの感受性は,(1)ErbB3を制御できるか,(2)PIK3CAの遺伝子型,によって規定されている可能性が高いと考察された。 耐性株におけるAktのリン酸化持続がErbB3のリン酸化持続によるものか,PIK3CAの活性型変異に起因するものなのかは,現時点では明らかではない。その点を明らかにすべく,現在trastuzumab感受性株(PIK3CA野生型)への変異型PIK3CAの形質導入に着手し,細胞学的,生化学的なtrastuzumab感受性の変化を検討する予定である。 更に我々は,trastuzumab感受性乳がん細胞株を同剤に持続暴露することによって,獲得耐性モデル株を作成した。その分子機構として,一次耐性株と同様に,PI3K経路の持続活性化が重要であることが示唆された。今後その詳細な分子機構についても検討予定である。
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