研究概要 |
平成19年度には、PIK3CAに活性型変異をもつHER2強発現乳がん細胞株はtrastuzumabに抵抗性を示し、trastuzumab作用下にもAktのリン酸化が保たれている、という知見をえた。当初PIK3CAの遺伝子導入を用いてPIK3CA変異のtrastuzumab耐性に及ぼす影響を明らかにする予定であったが、海外から同様の手法を用いた、我々の仮説を支持する研究成果が公表された。従って、平成20年度にはtrastuzumab耐性克服薬の探索、に焦点を絞ることとした。 まず、臨床で用いられている、HER2小分子阻害薬(HER2-TKI)による耐性克服の可能性について探索した。その結果、HER2-TKI(CL-387, 785)はPIK3CA変異をもつ細胞株のtrastuzumab耐性は克服せず、PIK3CA野生型/trastuzumab感受性株から薬剤持続暴露により樹立した獲得耐性モデル株には有効性を保つことが分かった。また、trastuzumab、CL387, 785のin vitro細胞増殖抑制と、HER2、Akt、S6K、ERK1、ERK2のリン酸化抑制との相関を検討した結果、リン酸化S6Kが最も強い相関をもち、pharmacodynamic markerとしての潜在性が示唆された。 これらから、HER2陽性乳がん治療におけるPI3K経路抑制の重要性が示唆されたため、次世代の分子標的薬として臨床応用が予想される、PI3K経路の分子に対する阻害薬(PI3K阻害薬、mTOR阻害薬、Akt阻害薬)についても検討を行った。その結果、PIK3CAの遺伝子型に関わらず、これらの阻害薬は有効であり、HER2強発現乳がん細胞株は元来PI3K経路に依存していることが示唆された。 本研究成果の臨床的意義を考察すると、PIK3CAが野生型であればtrastuzumabに有効である可能性が高く、後に2次耐性を獲得した場合にもHER2-TKIでの克服が可能かもしれない。一方、PIK3CAに変異がある場合は、HER2を標的とした治療は無効であり、PI3K経路を標的とした治療がより有効である可能性がある。尚、これらの仮説は、臨床試験で検証されるべきである。本研究成果たついては、現在論文作成中であり、その一部は第24回名古屋国際癌治療シンポジウムで口演発表した。
|