本研究は、哺乳類の発生、特に神経堤細胞に由来する器官の発生過程におけるDlgの機能を明らかにすることを目的としている。今年度の実施内容とその意義は以下の通りである。 1、神経堤に由来する細胞を特定するため、神経堤細胞がEGFPによって標識されるトランスジェニックマウスの系(PO-CreマウスとCAG-EGFPマウス)を当研究室に導入・確立するための準備を行った。2系統のマウスは熊本大学生命資源研究・支援センターより分与を受け、現在繁殖に供している。 2、Dlg遺伝子KOマウスでは心臓流出路の中隔形成不全が見られる。この発生機序を検証し、KOマウスでは血管内壁に中隔隆起は形成されるものの、本来E11.5からEl2.5にかけて癒合するはずの両側の中隔隆起が癒合していないことを見出した。中隔隆起は神経堤に由来するが、隆起そのものは形成されていたことから、癒合不全の原因が細胞数の減少にあるのか、あるいは癒合現象そのものが阻害されているのかを知ることが、今後のDlgの機能解明のために必要であると考えている。 3、胎生10.5日のDlg遺伝子KOマウス頭頸部では、間葉系細胞の細胞死が野生型マウスに比べて増加していた。Dlg遺伝子KOマウスでは上顎骨、口蓋骨などの低形成と口蓋裂が必発するので、この過程に神経堤由来細胞の細胞死が関与している可能性が示唆される。 4、Dlg遺伝子ノックアウトマウスにおける胸郭部組織の発生異常の解析 Dlg遺伝子KOマウスの心臓およびその周辺組織の解析途上で、KOマウスにおける胸骨の形態異常を発見した。Dlg遺伝子KOマウス胸骨には胸骨裂が多発し、また軟骨部の過剰な石灰化が見られた。胸骨は沿軸中胚葉に由来するので、神経堤由来細胞におけるDlgの機能と比較・対比させる意味で、胸骨の発生におけるDlgの機能についても今後並行して解析を行いたい。
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