Dlg遺伝子ノックアウトマウスでは、顔面の低形成、心臓流出路の形態異常などが生じることから、これらの器官発生に深く寄与している神経堤由来の細胞の発生が障害されていることが予想された。そこで本研究では、Dlg遺伝子の欠損が、神経堤に由来する細胞の発生分化にどのような影響を与えるのかを調べることを目的として、下記2項目について実験を行った。まず第一に、神経堤に由来する細胞でのみGFPを発現するPO-Cre/CAG-GFPトランスジーンをもつトランスジェニックマウスを用いて神経堤由来細胞を可視化することで、心臓神経堤細胞の発生過程を詳細に検証するとともにDlgの作用部位を明らかにすることを試みた。これにより、胎生9.5日~11.5日にかけて、左右の咽頭弓を経て移動してきた神経堤由来の2つの細胞集団が心臓流出路内に進入する様子を捉えることができた。また、これらの神経堤由来細胞にはDlg蛋白質の発現が確認された。Dlgはこれまで、神経細胞や上皮細胞における発現が主に注目されてきたが、今回の解析により間葉系の神経堤細胞でも作用しうることが明らかになった。二に、上記トランスジーンを持ち、なおかつDlg遺伝子を欠損したマウスを交配によって作出し、神経堤細胞発生に対する、Dlg遺伝子欠損の影響を直接的に解析することを試みた。実験には胎生期のミコータントマウスが大量に必要となるが、マウスの飼育スペースは限られているため、今年度は、実験に必要な十分数のミュータントマウスを安定的、かつ効率的に供給するための態勢を整備する段階で終わっている。この態勢を維持して今後ミュータント胎仔をサンプリングし、今後解析をさらに進めていく予定である。
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