研究概要 |
これまでの我々の研究結果より,細胞質内のCl^-濃度変化によって細胞周期が調節されていることが明らかになったが,その調節メカニズムの詳細は明らかになっていない。細胞周期調節タンパク質は細胞の核内で機能していることから,細胞質内のCl^-濃度変化が核内のCl^-濃度に対しても大きく影響を与え,その結果核内の細胞周期調節タンパクの活性に影響を与えているものと考えることができる。そこで本研究では,細胞内Cl^-濃度変化が核内の細胞周期調節タンパクに与える影響と,核膜に存在するCl^-チャネル(CLIC4)による細胞周期調節メカニズムの解明を目的とした。 胃ガン由来細胞株であるMKN28細胞を低Cl^-濃度培地で培養を行ったところ,有意な細胞増殖の抑制が認められた。また,同条件で細胞周期の解析を行ったところ,G_0/G1期細胞の割合が増加していた。以上のことから,MKN28細胞では低クロライド環境下においてG_1期からS期への進行が抑制(G_1/Sarrest)されることが明らかとなった。 低クロライド環境が細胞周期関連タンパクに与える影響について調べたところ,CDK inhibitorであるp21の発現が有意に増加していた。また,p21の発現増大にはextracellular signal-regulated kinase(ERK)の活性化が必用であることが明らかになった。ERKを介した転写制御は核内で起こることが明らかにされており,Cl^-が核内におけるERKの活性調節に重要な働きをしている可能性が強く示唆された。
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