難治性の慢性疼痛である神経因性疼痛の発症機序に関連する要因として、ATP受容体であるP2X受容体の発現亢進が示唆されている。しかしながら、P2X受容体を作動させるATPが、どこからどのような刺激により細胞外に放出されるのかは未だ謎のままであった。平成19年度の本研究成果により、ATPがノルアドレナリン(NA)の刺激により、後根神経節神経細胞から放出されることが、我々が開発したバイオセンサーを用いることで明らかとなった。 NA刺激によるATP放出機構について、それぞれの選択的阻害剤を用いることで、アドレナリン受容体の受容体β_3受容体を介していること、プロテインキナーゼA(PKA)の活性化を介していることが示唆された。また、β_3受容体の発現を遺伝子レベルでノックダウンすると、ATP放出が抑制された。ATPの細胞外への放出は、小胞輸送ではなくATPチャネルであるCFTR(cystic fibrosis transmembrane conductance regulator)を介することも証明された。一方、後根神経節に存在するその他の細胞(サテライトグリアおよびシュワン細胞)からは、ATPは放出されないことも判明した。 さらに、平成20年度の本研究成果により、β_3受容体阻害剤を神経因性疼痛モデル動物に投与すると、疼痛閾値の低下がみられた。 以上のことから、NA刺激により神経節神経細胞からP2X受容体を作動させるATPがβ_3受容体およびPKAの活性化を介して放出され、このβ_3受容体を神経因性疼痛治療のターゲットとして応用可能なことが明らかとなった。このことは、神経因性疼痛の発症機序の解明の一助となり、神経因性疼痛のより効果的な治療法開発に多大な貢献をもたらすと考えられる。
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