中枢神経ネットワークにおけるシナプス伝達の動作原理を解明することは記憶のメカニズムを知るための基盤研究として位置づけられる。平成19年度は以下の2項目について重点的に実験を行い、本研究課題の基盤を築いた。 1、シナプス小胞の開口放出の活動依存性の解明 自己にシナプスを形成する「オータプス培養細胞」を作製し、発達に伴うシナプス小胞動態の可塑的変化を6-7day in vitro(DIV)、13-14DIV、21-23DIVにおいてパッチクランプ法にて解析した。結果、活動電位発生に同期してシナプス小胞から開口放出されるグルタミン酸(Synchronous release)は発達と供に増加し、Readily releasable pool(RRP)サイズも増大することが明らかとなった。加えて、幼若期の6-7DIVではシナプス小胞からのグルタミン酸放出確率(Pvr)は非常に高く、発達とともにPvrは減少し13-14DIV以降は一定値を示した。 2、Vesicle localizationとシナプス長期可塑性の相関関係の解明 上記培養標本にパッチクランプ法を適用し、6-7DIV、13-14DIV、21-23DIVにおいて活動電位の高頻度刺激(20Hz)によるグルタミン酸放出のキネティクスを電気生理学的および生物物理学的に解析した。高頻度刺激中のシナプス小胞からのグルタミン酸開口放出において放出確率の高いシナプス小胞(High Pvr pool)と低いシナプス小胞(Low Pvr pool)の割合を解析したところ、シナプスの発達とともにHigh Pvr poolとLow Pvr poo1のサイズは増大したものの、両者の割合に有意な発達変化は認められなかった。 以上の結果より、シナプス小胞動態の多様性に発達要因は含まれないことが判明した。このことは20年度にシナプス伝達長期増強(LTP)モデルを作製する上で、発達要因を除外できる有用な結果である。
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