申請者らは、A170の生体内における機能を明らかにするために、ジーンターゲッティング法によりA170遺伝子欠損マウス(KOマウス)を作製し表現型を解析した。その結果驚くことに、A170 KOマウスは加齢とともに著しく体重が増加し、重度の肥満症を呈した。病態は肥満症にとどまらず、脂肪肝、2型糖尿病、高インスリン血症などの生活習慣病を併発していることが明らかになった。同マウスの食餌量は野生型マウスと比べ著しく増加しており、またそれを制限することで病態発症が抑制されることから、過食によるエネルギーの過剰摂取が病態を引き起こす原因であることを突き止めた。さらに、摂食調節において中心的な役割を担う中枢における発現を解析したところ、A170は視床下部において特に強く発現している領域があることを見出した。そこで本研究は、A170の中枢における機能に着目し、「ストレス応答タンパク質A170が摂食行動を調節する分子メカニズム」を明らかにすることを目的とした。 まず、脳特異的にA170を欠損させた(コンディショナルノックアウト)マウスの解析をするために、A170遺伝子のエクソン領域にLoxP配列を挿入したマウスを作成した。現在このマウスの解析に取りかかっている。 また、中枢における摂食調節遺伝子の発現をリアルタイムPCRにより解析した。その結果、主要な摂食調節遺伝子発現量に顕著な差異は認められなかったが、摂食調節因子の脳室内投与による薬理学的な実験により、レプチンに対する感受性が低下していることが明らかとなった。実際、血中のレプチン値も高値となっており、いわゆるレプチン抵抗性がA170欠損マウスが呈する肥満の原因であることが解明された。
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