本年度は、乳児の表情に対する脳活動変化が実験群で異なるか否か、あるいはそのホルモン動態が脳活動変化の差に起因するか否かを調べることを研究の目的としていた。そこで、男性(父親、非父親)、未経産女性、母親を対象に実験を行った。血清プロラクチン、唾液コルチゾールを測定した結果、プロラクチンは、男性に比べ、未経産女性、母親では高く、性差が見られたが、コルチゾールは、3群における差は見られなかった。したがって、母親の右前頭前野活動の特異性の原因として、プロラクチンは男性との違いに関与する可能性はあるが、未経産女性との違いは見られなかった為、未経産女性と母親の脳活動の違いは、プロラクチンの一過性の分泌がもたらした可能性を否定できるものと考えちれる。一方、コルチゾールについては3群で違いが見られない為、一過性の分泌やストレスが原因ではない可能性が考えられる。そこで、現在、プロラクチンと同様に母性行動に関与するホルモンであるオキシトシンに注目し、これを測定することを計画している。 一方、母親は右前頭前野以外の領域には特異的な脳活動があるのか否かを調べる為に、多チャンネル型近赤外分光法を用いて側頭葉、頭頂葉、後頭葉について調べた。その結果、未経産女性と母親では、同様な課題を行った際の側頭葉、頭頂葉、後頭葉についての脳活動の違いは見られなかった。これにより、母親の右前頭前野活動の特異性を示唆するさらなる知見を得ることができた。 したがって、次年度以降は、乳児の泣き声を用いた課題により、別のモダリティの場合でも同様の活動が見られるかについて検討を行う。さらに、その原因となるメカニズムについて、ホルモンや情動の変化について検討する。本研究成果より、ヒトの母性行動に関わる脳部位を明らかにし、関連するホルモンを調べることで、客観的指標を用いた母性行動のスクリーニングや改善方法に応用できると考えられる。
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