申請者は研究期限内に、1) α-、及びβ-アドレナリン受容体刺激あるいは容量負荷によって生じる急性、慢性心不全マウスモデルでARBによる治療効果と受容体-受容体affinity(免疫共沈降法による)、MAPK活性化、心筋エネルギー代謝、組織酸化ストレス、及びミトコンドリアが深く関係するアポトーシスを指標に解析する。2) 同様にATla受容体遺伝子欠失(ATlaR^<-/->)マウスを用いて、アドレナリン受容体刺激による心不全病態を評価する。3) MAPK活性化機構の検討では、その上流の制御因子mnall G proteinであるRap1(抑制性)とRas(刺激性)の制御機構を明らかとする。試験的なデータではあるが、β-アドレナリン受容体刺激にcAMP依存性のRap1の活性化亢進を認め、これがARB治療時のERK抑制に必須であり、ひいては心肥大、心筋酸化ストレスの正常化を促す可能性を得ている。 申請者らは、ARBの腎保護効果についても活性酸素の関係から動物モデルを用いて証明してきた。本研究は、レニン-アンジオテンシン系の関連薬剤の薬理学的解釈を深め、さらに臨床応用への基礎的根拠となるものである。本研究は、これらの結果をふまえてのもので、特に心不全病態下で血中あるいは組織局所での特異的受容体リガンドであるANGIIの増加が認めらない場合においても、ARBがその特異的受容体遮断効果を通して多因子複合型である心肥大シグナルを抑制制御するという仮説を提唱し、またこの証明となるエビデンスを提示することができる。心血管系リモデリングに関わるアンジオテンシン受容体の働きについて、新たな視点から検討し、さらに全く新しい治療薬、治療効果の考え方を示すことできると考えている。併せてこれら病態モデルにおいて、心筋の肥大など心血管系リモデリングに大きく関与するERKの制御因子、抑制性small Gタンパク質Rap1に焦点を当てた研究は過去に報告がなく、病態生理上の新たな評価方法を提示できると考えられる。
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