本研究では、これまで創薬標的とされてこなかった神経性ネクローシスに着目し、ネクローシス抑制物質を海洋微生物ライブラリーより探索すると共に、そのリード分子として見いだした核蛋白質であるプロサイモシンα(ProTα)の分子基盤解明及び受容体同定を行うことを目的としている。本年度の研究では、脳卒中モデルとしてラット中大脳動脈結紮(1h)に対して、ProTαを再灌流後3時間以内に全身投与することで虚血によって誘導される脳組織傷害及び運動機能障害を抑制することを見いだした。この際、ProTαは、脳虚血で誘導されるネクローシス及びアポトーシスの両方を抑制することが、PI染色とTUNEL染色の応用によって明らかになった。ProTαによるアポトーシスの抑制のメカニズムは内在性のBDNF及びerythropoietinが関与している事が吸収抗体を用いた検討によって明らかとなった。以上の結果、脳卒中傷害に対してProTαは直接神経細胞に作用し、虚血によって減少したグルコースの取り込みを促進することで神経ネクローシスを抑制すると同時に、アポトーシス誘導因子であるBax発現を増加し、アポトーシス経路を活性化する。しかしながら、誘導したアポトーシスは内在的に存在する神経栄養因子の働きを利用することで結果としてネクローシスとアポトーシスの両方を抑制する事が示唆された。一方、ProTαは培養ミクログリア細胞に処置することで、ミクログリアの形態変化及び神経栄養因子の発現を増加させることを見いだした。さらにミクログリア培養上清を培養神経細胞に処置することで、神経細胞でも神経栄養因子を発現増加が観察された。現在、詳細について検討中である。海洋微生物ライブラリーからのネクローシス抑制分子を探索については、神経ネクローシスを簡便に評価する実験系を確立したことから、本系を用いてライブラリーからのスクリーニングを進めていく。
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