本研究では、これまで創薬標的とされてこなかった神経性ネクローシスに着目し、ネクローシス抑制物質を海洋微生物ライブラリーより探索すると共に、そのリード分子として見いだした核蛋白質であるプロサイモシンα(ProTα)の分子基盤解明及び受容体同定を行うことを目的としている。最終年度の研究では、これまでに確立した初代培養神経細胞に対する無血清飢餓ストレスの負荷によってネクローシスを誘導する系を用いて、保有する海洋微生物ライブラリーよりネクローシス抑制活性を有する培養上清のスクリーニングを行い、数種類の海洋微生物の培養上清に神経ネクローシス抑制活性があることを明らかにした。ProTαの分子基盤解明では、脳と同じ中枢神経である網膜神経細胞を標的とした、網膜虚血モデル(45分虚血後再灌流)を用いた虚血性網膜神経細胞死に対するProTαの効果を検討し、虚血・再灌流処置24時間後の全身投与でも有意な保護効果を示すこと見出した。また、この保護機構は光に対する網膜の電気応答を検出すElectroretinogram法においても改善がみられ、機能的にも保護していることが示唆された。この様なProTαの保護機構には、直接的な神経ネクローシスの抑制と神経細胞及びグリア細胞からのBDNF等の神経栄養医因子の発現上昇による間接的なアポトーシス抑制機構があることが明らかになった。一方、ProTαによるBDNFの発現上昇機構を解明するため、細胞レベルでの検討を行い神経細胞のみの培養ではProTαによるBDNF発現上昇が認められない事、しかしながら、ミクログリアと神経細胞の共培養条件下では、ミクログリア及び神経細胞の両方でBDNF発現が増加することを見出した。さらに培養ミクログリアにProTαを処置した後回収した培養上清でも、神経細胞でのBDNF発現上昇が認められた事から、ProTαによるミクログリアから遊離分子が神経細胞のBDNFの発現に関与することが明らかになった。
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