本研究の主題は、転写因子MafKによるBlimp-1遺伝子の転写抑制化から活性化への制御機構を理解することにある。そこで、私はMafKによる転写制御に関わる因子の同定を目指して、MafKを中心とした転写制御複合体の精製を試みた。まず、マウス形質細胞腫由来のX63/0細胞株にFLAGとHA、ヒスチジンタグを融合させたMafK蛋白質の発現細胞株を樹立した。この細胞から抗FLAG抗体とニッケルレジンの二段階アフィニティー精製法によって、MafK蛋白質複合体を精製し、その構成因子を質量分析法によって解析した。その結果、MafKとヘテロ二量体を形成する転写因子Bachlや、クロマチン構造に変化をもたらすFACTやKu、PARP1などが同定された。また、メチル基転移酵素の基質であるS-アデノシルメチオニン(SAM)の合成酵素、メチオニンアデノシル基転移酵素(MATII)も同定された。さらに、MATIIが細胞質分画だけでなくクロマチン分画にも存在することを、X63/0細胞株とマウス赤白血病由来のMEL細胞による分画抽出から明らかにした。そこで、MATIIが標的遺伝子のMaf認識配列(MARE)に存在しているのかどうかを確かめるために、MEL細胞を用いて抗MATII抗体によるクロマチン免疫沈降実験をおこなった。その結果、βグロビン遺伝子のプロモーター領域やDNaseI感受性領域(HS2)のMAREにMATIIが存在することを明らかにした。このことから、MafK蛋白質複合体は、MATIIとともに局所的にSAMを供給し、メチル基転移酵素によるヒストンやDNAなどのメチル化を促進する可能性がある。
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