本研究の主題は、転写因子MafKによるBlimp-1遺伝子の転写抑制化から活性化への制御機構を理解することにある。そこで、私はMafKによる転写制御に関わる因子の同定を目指して、MafK転写制御複合体の精製から、メチオニンアデノシル基転移酵素(MATII)を同定した。この因子がMafK蛋白質複合体の構成因子であることを証明するために、RNA干渉法を用いて、Hepa1c1c7細胞におけるMATIIの発現を減弱(ノックダウン)させた。その結果、MafKの標的遺伝子であるヘムオキシゲナーゼ(HO-1)の発現が増加し、酸化ストレス誘導による発現も増強した。また、MATIIによるHO-1遺伝子の転写制御に、その酵素活性が必要であるかどうかを確かめるために、MATIIの活性中心である134番目のアスパラギン酸の変異体(D134A)をHepa1c1c7細胞に過剰発現させた。その結果、MATIIをノックダウンさせた場合と同様に、酸化ストレス誘導によってHO-1の発現が増強した。このことから、HO-1遺伝子の転写抑制化には、MafK/Bach1のヘテロ二量体だけでなく、MATIIの酵素活性も必要であることが明らかになった。一方で、MATIIをノックダウンさせることによって、ヒストンH3K4ないしH3K9のメチル化がゲノム全体で包括的に減弱した。また、繰り返し配列やレトロトランスポゾンが含まれるヘテロクロマチン領域のDNAメチル化も減弱し、これらの領域由来の転写物が増加した。このことから、MATIIはゲノム全体のクロマチン構造に影響を及ぼす可能性が示唆された。
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