上皮系細胞はアピカル面-バソラテラル面と呼ばれる機能的に異なる非対称性の細胞構造を持つ極性細胞であり、種々の機能分子を細胞内の特定の部位に配置(局在化)させることにより極性を持った細胞構造の形成・維持が行われ、多種多様な細胞機能の発現が制御されている。しかしながら、アピカル面への膜型分子の局在制御機構については、未だ十分に明らかとはなっていない。そこで本研究では、アピカル面に局在する受容体型チロシンホスファターゼSAP1をモデルとして、上皮系細胞における膜型分子のアピカル面への局在制御機構を明らかにすることを試みた。膜型分子の局在制御機構の解析に有効なイヌ腎上皮細胞であるMDCK細胞を用い、SAP1のアピカル面への局在制御に関与する責任領域の検討を行ったところ、SAP1の細胞内領域よりはむしろ膜貫通領域を含めた細胞外領域がそのアピカル面への局在化に重要であることが示唆された。さらに、膜型分子のアピカル面への局在化には、その細胞外領域のN型糖鎖修飾が関与することが示唆されているが、SAP1は細胞外領域にN型糖鎖修飾を受けると予想されるアミノ酸配列(N-X-T/S)をもつことから、N型糖鎖修飾がその局在制御に関与するかにつき検討を行った。SAP1を過剰発現するHEK293T細胞をN型糖鎖修飾の阻害剤であるツニカマイシンで処理すると、SAP1の見かけ上の分子量が減少することから、N型糖鎖修飾を受けていることが確認された。一方、ツニカマイシン処理を行いMDCK細胞におけるSAP1のアピカル面への局在化を検討したが、その局在には著明な変化は認められず、N型糖鎖修飾の関与は低いと考えられた。現在、SAP1のアピカル面への局在化を制御する分子機構のさらなる解析を進めている。
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