本研究では、共通の機能ドメイン構造をもつチロシンホスファターゼであるSAP1およびPTP-ROをモデルとして膜型分子の上皮系細胞におけるアピカル面への局在制御の分子メカニズムを明らかにすることを試みた。前年度よりSAP1のアピカル面への局在および発現制御の分子機構の解析を進める中で、SAP1、PTP-ROの細胞内領域がチロシンリン酸化を受け、膜タンパク質の細胞膜における局在およびその発現制御に関与する分子と相互作用する可能性を見出した。両者のリン酸化部位は、共通のYxxNモチーフからなり、SH2ドメインを持つGrb2と相互作用することが明らかとなった。Grb2は、EGFRなどの受容体型チロシンキナーゼの下流で機能するシグナル分子の一つであり、これら受容体のエンドサイトーシスを制御する分子であることが知られている。このことから、現在、SAP1やPTPROのアピカル面での局在や発現制御にGrb2との会合が関与するかにっき更なる解析を進めている。一方、SAP1遺伝子破壊マウス由来の消化管粘膜上皮細胞において、その微絨毛の膜分画に存在する複数のタンパク質が野生型マウスに比ベチロシンリン酸化を強く受けることを見出した。そこで、これらのタンパク質の精製を進め、複数のタンパク質の同定に至った。受容体型タンパク質の細胞膜上での発現制御にはタンパク質チロシンリン酸化シグナル系の制御分子が関与することが知られている。このことから、今回同定されたタンパク質は、SAP1の基質やSAP1シグナルの制御分子であるとともに、SAP1のアピカル面への局在化、およびアピカル面での発現制御に寄与する可能性が考えられる。そこで、SAP1の局在制御分子としての観点から、これらタンパク質につき解析を進めている。
|