本研究ではDNA複製因子のPSF1とSLD 5 の幹細胞や癌細胞の複製と分配における機能解析と、SLD5が幹細胞に特異的に発現することを利用した幹細胞の可視化を目的として以下の研究を実施した。 1.幹細胞の染色体分配におけるPSF1の機能解析 PSFlホモ欠損胚の細胞では高頻度に染色体分配の異常が観察された。RNAi法でPSFl遺伝子を阻害すると、細胞周期のM期からG1期に移行する過程が遅延することが解った。これは紡錘体形成が抑制されていることに起因していた。 2. PSF1あるいはSLD5遺伝子のヘテロ欠損の発癌への影響 PSFlあるいはSLD5ヘテロ欠損マウスを1年間飼育して癌の自然発症率を解析したが、野生型と比較して有意な差はみられなかった。また、発癌誘導モデルマウスと交配し、PSFlあるいはSLD5ヘテロ欠損マウスによる癌の発症率を解析したが、野生型と比較して有意な差はみられなかった。 3.癌組織レベルでのPSF1あるいはSLD5発現細胞の可視化と機能解析 SLD5遺伝子座をβ-galactosidaseに組換えたES細胞株を作成した。 4.初期発生におけるSLD5の機能解析 X-Gal染色法によりSLD5の発現は初胚で高く、胎生9日以後は発現が減弱すること、および組織学的解析から、SLD5ホモ欠損マウスはDNA複製が阻害されて胎生6日前後に死ぬことが明らかになった。 5. PSF1遺伝子をコンデショナルにノックダウンできるマウスの作成とこれを用いた幹細胞の癌化機構の解析PSF1の遺伝子発現を抑制できるshRNA配列を5つ見つけた。これをトランスジェニックマウス作成用のプラスミドに組換えた。
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