研究概要 |
細胞内シグナル伝達におけるセカンドメッセンジャーPtdIns(3,4,5)P3(PIP3)は、細胞増殖に必須な物質であり、増殖因子刺激依存的に産生される。しかし、その過剰な産生はガンや糖代謝異常を引き起こす原因ともなる。従って、PIP3ホスファターゼによる細胞内PIP3の適切な調節は細胞にとって必須な伝承である。私はインスリンシグナルを実験系として、複数のPIP3ホスファターゼ分子による、分子依存的なPIP3脱リン酸化の時間的・空間的な制御の解析を行った。その結果、PIP3ホスファターゼPTEN,SHIP2,SKIPによるPIP3量の制御には時間的な差異が認められた。3位の脱リン酸化酵素であるPTENは、数秒から数分にわたる非常に速い時間のPIP3産生を調節しているのに対して、SKIPやSHIP2などの5位の脱リン酸化酵素は数時間にわたり比較的遅い時間までの細胞内PIP3量を調節することが明らかとなった。これは、分子間で異なる時間的な活性の制御が行われているか、異なるPIP3に働きかけているかのいずれかの可能性を示唆するものである。さらに、この結果は糖代謝から細胞の生存に至るまでの、時間的に多様なインスリンの機能を説明するのにPIP3ホスファターゼが重要な因子となる可能性を表している。単一のPIP3ホスファターゼ分子の制御だけで、糖尿病に至る糖代謝の異常を改善できる可能性を示唆していると考えられる。
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