近年の研究により、アミノ酸はタンパク質を構成する原料であるのみならず、シグナル伝達物質として作用し、タンパク質リン酸化を介して細胞機能を制御することが明らかとなってきた。mTORは、免疫抑制剤および抗がん剤として注目されるマクロライド系有機化合物ラパマイシンの細胞内標的として見出されたセリン/トレオニンプロテインキナーゼであり、栄養シグナルのセンシング、特に、細胞環境中のアミノ酸濃度変化を感知する機構において中心的な役割を担っている。mTORの生理的基質としては翻訳調節に関与するS6Kと4E-BP1が知られているのみであり、mTORの下流シグナルの詳細についてはいまだに不明な点が多い。本課題では、mTORによる基質タンパク質のリン酸化反応において足場を提供するスキャフォールドタンパク質raptorの新規結合タンパク質として同定したPRAS40が、in vitroにおいてmTORの良い基質となることを見出し、mTORによるリン酸化部位を決定することに成功した。さらに、mTORによるリン酸化を特異的に認識するリン酸化部位特異的抗体を作製し、これをツールとしてPRAS40の細胞内におけるリン酸化状態を解析した結果、PRAS40のリン酸化はアミノ酸によって惹起され、mTOR阻害剤であるラパマイシンによって抑制されることを見出した。PRAS40はmTORの新規基質としてmTORの未知の細胞機能の制御に関与している可能性が高い。平成20年度は、mTORによるPRAS40リン酸化の意義に注目して解析を進め、mTORがPRAS40を介してどのような細胞機能を制御しているのかを明らかにすることを目標とし研究を進める予定である。
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