アポトーシス抑制因子であるBcl-2はミトコンドリアだけでなく小胞体にも存在する。我々のこれまでの研究により、Bcl-2はそれら2種類のオルガネラ上で異なる活性制御を受けることが示唆されていたが、その詳細については不明のままであった。今回、ミトコンドリアBcl-2と小胞体Bcl-2がBH3-onlyタンパク質によりどの程度異なる活性制御を受けるかを定量的に検討したところ、小胞体上のBcl-2はミトコンドリア上のBcl-2に比べて約2〜3倍不活性化されやすいことがわかった。このことは、同じBH3-onlyタンパク質により誘導されるアポトーシスシグナル伝達であっても、それがミトコンドリアを経由する場合と、小胞体を経由する場合とでは、その効果が大きく異なることを意味する。このシステムの存在により、アポトーシスシグナル伝達は非常に複雑に制御されていると考えられた。また、Bcl-2の活性制御は、Bcl-2の構造変化(膜への組み込み)によって制御されるという報告が出されていたことから、それらに関与する因子の同定を試みた。具体的には、ミトコンドリアにおいてタンパク質の膜への組み込みに関与することが知られているSAM複合体とBcl-2との結合の可能性をブルーネイティブゲル電気泳動法で検討したが、アポトーシス刺激の前後においてSAM複合体とBcl-2との結合を検出することはできなかった。さらに、様々な架橋試薬を用いてBcl-2に結合する新規タンパク質の同定を試みたが、アポトーシス刺激の前後において結合もしくは解離する新規タンパク質を同定することはできなかった。現在、Bcl-2の活性制御に伴う構造変化(膜への組み込み)は、タンパク質因子ではなく、膜を構成する脂質因子によって制御されているのではないかと推定し、それを解析するための実験系を構築しつつある。
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