ダウン症候群の原因遺伝子の一つとして考えられているDSCR(RCAN)1は、細胞内でカルシウム上昇により惹起されるcalcineulin/NFATシグナル経路の調節因子として機能する。また、酸化ストレスはDSCR1タンパク質の分解とその後のDSCR1遺伝子の発現を誘導するため、酸化ストレス下におけるDSCR1の生理的役割の重要性が示唆されている。酸化ストレスは多くの神経変性疾患の発症原因となることから、我々は酸化ストレスによるDSCR1分解機構の解明が神経変性疾患発症機構の解明に新たな知見を提示できると考え解析を行なった。過酸化水素水刺激によるHEK293T細胞への酸化ストレスは、DSCR1のタンパク質量を減少させるとともに、ユビキチン化修飾を誘導する事が確認された。また、DSCR1は過酸化水素水刺激によりSCFユビキチンリガーゼの基質認識サブユニットであるβTrCPと結合し、SCF^<βTrCP>を介してユビキチン化修飾を受ける事がin vitro実験系およびHEK293T細胞において確認された。さらに、初代培養神経細胞では、低濃度域の過酸化水素水刺激はcalpain経路によるDSCR1の分解を誘導するが、高濃度域の刺激ではユビキチン化修飾によるDSCR1の分解を誘導する事が確認された。これらの結果から、神経細胞において酸化ストレスは刺激の強さにより異なる二つの経路でDSCR1タンパク質の分解を誘導する事が示唆された。
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