研究概要 |
運動・増殖している正常な細胞がお互いに接触して、隣り合う細胞どうしで細胞間接着を形成すると細胞は運動と増殖を停止するが、この現象は細胞の運動と増殖の接触阻害として古くから知られている。また、細胞間接着を形成した正常細胞は、運動・増殖を停止した後も生存し続ける必要がある。しかし、接触阻害の分子機構や、細胞間接着と細胞生存との相互関係における分子機構についてはほとんど明らかになっていない。この分子機構を明らかにするため、新規細胞間接着分子ネクチンに着目し、このネクチンがインテグリンや増殖因子受容体による細胞の運動、増殖、生存のシグナル伝達系およびそれらのクロストークをどのように制御しているのか検討し、本年度は以下の点について明らかにした。 1.細胞間接着形成後のインテグリン不活性化におけるネクチンの関与 ネクチンによる細胞間接着の形成にインテグリンの活性化が必要であるが、逆に、細胞間接着の形成後、インテグリンは不活性化される。このインテグリンの不活性化には、ネクチンによって活性化されるホスファターゼPTPμが、インテグリンの活性化を促進するI型ホスファチジルイノシトール5-キナーゼの作用を抑制することが重要であることを見出した(Sakamoto, et. al.J Biol Chem.2008)。 2.血小板由来増殖因子による生存シグナル活性化におけるネクチンの制御機構 ネクチンがPDGF受容体細胞間接着部位で共局在し複合体を形成すること、さらに、血小板由来増殖因子による細胞生存には、ネクチンと共にネクチンの細胞内領域でネクチンと結合するアファディンが重要な役割を果たしていることを見出した(論文投稿中)。このネクチンーアファディン系は血小板由来増殖因子によって活性化される生存シグナルPI3-キナーゼ/Akt経路を正に制御していた。
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