本研究目的は、糖鎖異常を伴う先天性筋ジストロフィーの発症機序を理解し、治療戦略を創造することにある。中でも、本邦に多くみられる福山型筋ジストロフィーは、有効な治療法がなく、大多数の患者は10代でその生涯を終える、極めて重篤な先天性疾患である。本疾患では、基底膜ラミニン受容体のジストログリカンに糖鎖異常が生じており、これが発症に関与すると考えられる。今年度は、研究計画に従って、福山型筋ジストロフィーモデルマウスの組織病態学・生化学解析を行った。モデルマウス筋では、福山型患者にみられるような、ジストログリカンの糖鎖異常が再現されていたが、一方で、顕著な病態はみとめられなかった。モデルマウス筋から少量の正常糖鎖型ジストログリカン分子が検出されたため、これが病態抑制に関わっていると考えられる。この結果から、本疾患の治療に向けて、糖鎖異常の全てを回復させる必要はなく、部分的な回復のみで病態の軽減・抑制につながる、という新概念を提唱するに至った。更に、糖鎖異常の解消手段として、疾患原因遺伝子のフクチン遺伝子、あるいは、糖鎖増強作用を持つLARGE遺伝子を、モデルマウス筋に導入したところ、マウス生体内で糖鎖異常を解消させることに成功した。つまり、フクチンやLARGEの遺伝子治療が、福山型筋ジストロフィー治療に効果的であることが示された。以上の結果は、福山型筋ジストロフィーの新たな治療戦略の基盤となるのみならず、世界的にも多くみられる関連疾患の病態解明・治療研究に貢献することが強く予想されるため、平成20年4月に国際学会で報告する予定である。また、現在、論文投稿準備中である。
|