研究概要 |
胸腺上皮細胞で強く発現しているAIREは,その変異によって自己,非自己の識別機構に傷害を受け自己免疫疾患を発症させる。このように,AIREは胸腺上皮細胞における自己抗原の発現に関与していることが知られているがそのメカニズムは未だ明らかにされていない。平成19年度,我々は胸腺上皮細胞におけるAireの発現がエピジェネティックな制御,つまりDNAのメチル化によって制御されているかについて検討を行った。そこで,我々はAireがあまり発現していない脾臓や脳を含めた各種臓器からDNAを抽出した。また,胸腺上皮細胞は胸腺からMACSカラムを用いてCD45(-),MHC ClassII (+)のフラクションを分離し,DNAを抽出した。DNAのメチル化解析は,Bisulfite Sequencing法を用いてAireの上流に位置するCpGアイランド領域を解析した。その結果,解析したすべての臓器においてAireのCpGアイランドが非メチル化状態であることがわかった。つまり,少なくともマウスにおいてAire遺伝子は,メチル化によって制御されていないことがわかった。逆に,Hela細胞などを含めたヒトの細胞では,AIREの上流領域がメチル化されていた。つまり,今回の研究からAIRE/Aire遺伝子の制御がヒトとマウスで異なっている可能性が示唆された。つぎに,我々はAireによる染色体ドメインレベルの遺伝子発現制御機構を解析するため,Igf2, Ins2遺伝子座に着目し解析を行った。この領域は,ゲノム刷り込みをうける遺伝子がクラスターを形成している領域であると同時にAire依存的な自己抗原遺伝子Ins2が位置する領域でもあります。先に別の研究グループから胸腺上皮細胞においてIgf2遺伝子が両アレル発現をすることが示されていたのでこのことも含め,Aireがどのようなエピジェネティックな制御を介して自己抗原の転写に関与しているか検討した。そこで,B6マウスとBALB/cマウスから生まれたF1マウスを用いてアレルを識別し胸腺上皮細胞においてIgf2遺伝子の刷り込み状態を検討した。しかしながら,先に報告された結果と異なりIgf2遺伝子は父方からのみ発現を示していた。今後,AireKOマウスなどを用いることでこの領域のゲノム刷り込み遺伝子の発現様式を詳細に解析する必要があると思われる。
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