転写因子p63は皮膚の形成に必須な因子であることから、p63の下流標的分子が、ケラチノサイトの増殖・分化を調節すると考えられている。しかしながら、p63による皮膚の分化制御機構には不明な点が多く残されており、その下流分子の同定とその役割が注目されている。本研究では、分泌性の生理活性物質に着目し、ケラチノサイト分化に必要なp63標的分子の探索を行い、皮膚分化における役割を解析した。 まず、p63を過剰発現あるいはノックダウンして、PCRアレイ等を用いて標的因子の探索を行った結果、growth differentiation factor 15 (GDF15)がp63の標的分子と考えられた。GDF15はTGF-βファミリーに属し、皮膚で発現が報告されていることから、p63による制御を受けて皮膚形成に関与する可能性が考えられた。そこで、TAp63の過剰発現・siRNAによるノックダウンの解析を行い、GDF15がTAp63により制御を受けることを示した。GDF15遺伝子のプロモーター領域には2箇所のp63結合サイトが存在したことから、両p63結合サイトあるいは一方を含むレポータープラスミドを作製し、ルシフェラーゼアッセイにより転写活性化能を解析した結果、TAp63によるGDF15の転写活性化には転写開始点近傍のp63結合サイトが必要であることが示された。また、GDF15をノックダウンしてケラチノサイトを分化させた結果、分化マーカーであるケラチン10およびインボルクリンの発現上昇が強く抑制されたことから、GDF15がケラチノサイト分化において重要な役割を担うことが明らかとなった。本研究の結果から、p63の標的分子として、ケラチノサイトの産生する分泌性の生理活性物質が皮膚の発生・分化を調節する可能性が示された。
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