α-DGは糖鎖を介してラミニンなどの基底膜の分子に結合し神経や筋組織を正常に保つ。α-DGの主要糖鎖であるO-マンノース型糖鎖の生合成を担う糖転移酵素POMT1、POMT2は先天性筋ジストロフィーの原因遺伝子産物である。POMT1とPOMT2の酵素活性の発現にはPOMT1-POMT2複合体の形成が必要である。これまで調べた範囲では、WWSでみられるPOMT1およびPOMT2の変異はPOMT活性を失活させる。変異により活性消失のメカニズムについてはよく分かっていないが、変異がPOMT1およびPOMT2の広範囲に散在していることから、タンパク質の構造異常がひとつの要因として考えられる。POMT1とPOMT2は多回数膜貫通型タンパク質と予測されているが、その構造情報は未だ不明である。ところで、N型糖鎖の修飾は小胞体およびゴルジ体の内腔側でしか起こらないことから、膜タンパク質の膜に対する配向性の指標として利用できる。ヒトPOMT1とPOMT2にはN型糖鎖修飾のコンセンサス配列(Asn-X-Ser/Thr)がそれぞれ4ヶ所と5ヶ所存在する。そこで、N型糖鎖修飾され得るAsnをGlnに置換した変異体を作製し、分子量の変化からN型糖鎖の修飾部位を決定した。また、変異によるPOMT活性への影響を調べた。 変異体の解析からPOMT1では3ヶ所に、POMT2では5ヶ所全てにN型糖鎖が修飾されることが分かり、この結果は現在予測されている膜配向性モデルを支持するものであった。また、POMT1あるいはPOMT2のAsnを1ヶ所置換しても、POMT活性にはほとんど影響しないことが分かった。さらに、POMT1かPOMT2のどちらか一方のAsnをすべて置換してN結合型糖鎖を欠失させると、POMT活性が完全に消失した。これらの結果から、POMT1とPOMT2のN型糖鎖はPOMT活性に必要であることが明らかとなった。
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