研究概要 |
926例の胃癌症例の検討では、早期胃癌で術後経過観察中遠隔転移をきたした例はすべてclear cell type, あるいはhepatoid typeの組織像を示していた。これらの組織像を示す胃癌の一部はAFP産生を示すことが以前より知られていたが、本研究者はこれらの高悪性度胃癌のより高感度なマーカーとしてGlypican3を見出した。926例の解析からGlypican3を発現する胃癌は分化型胃癌に多く、脈管侵襲の頻度が高く、リンパ節転移をきたしやすいことを明らかにし、これらの成果をCancer Science誌や胃癌関連の学会で発表した。内視鏡治療の適応となる分化型早期胃癌でも、Glypican3陽性例に対しては慎重に適応を検討する必要があると考えられる。 一方、現時点では未分化型胃癌は内視鏡治療の対象外とする施設が多いが、今後は未分化癌の中でもリンパ節転移を来しにくい群を抽出し、安全な内視鏡治療の適応拡大を検討することが求められている。本研究者は胃癌の約10%を占めるEpstein-Barrウイルス(EBV)関連胃癌に注目し、内視鏡治療適応の可能性について検討した。EBV関連胃癌はリンパ球性間質を伴う未分化型胃癌の組織像を示すことが多いが、一般に比較的予後良好な胃癌と考えられている。1990年以降の早期胃癌から70例のEBV関連胃癌を見出し、臨床病理学的検討を行ったところ、EBV陰性胃癌と比較してリンパ管侵襲、静脈侵襲ともに低頻度であった。リンパ節転移例は粘膜下層浸潤距離が2mm以上の2例のみであり、内視鏡治療の対象となり得るsmlまでの病変であればリンパ節転移の可能性は非常に低いと考えられた。EBV関連胃癌は内視鏡治療のよい適応病変である可能性を示したが、今後はより多数例での検討が必要である。
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