Thyroid transcription factor-1 (TTF-1)の発現は臓器特異性があり、また濾胞上皮由来の甲状腺腫瘍においても分化度により発現が異なる。TTF-1発現制御の分子機構については十分な解明がされていないため、我々はTTF-1発現に対するエピジェネティックス機構の関与について検討を行った。材料はヒト甲状腺切除標本、ヒト甲状腺癌培養細胞株を用い、RT-PCR、methylation-specific PCR (MSP)、ChIP assayによる解析を試みた。RT-PCRでは正常甲状腺組織、甲状腺乳頭癌にTTF-1 mRNAの発現が認められたが、甲状腺未分化癌ではTTF-1 mRNAは陰性であった。MSPによるTTF-1プロモーターのDNAメチル化は甲状腺未分化癌で60%、甲状腺癌細胞株で50%に認められ、TTF-1遺伝子の発現とは逆の相関を示した。TTF-1プロモーター領域のhistone H3 lysine 9をChIP assayで解析するとTTF-1発現陽性の甲状腺癌細胞株ではアセチル化が優位、TTF-1陰性の細胞株ではジメチル化が優位となりTTF-1遺伝子発現とピストン修飾には関連性がみられた。DNA脱メチル化剤(AZA)、ピストン脱アセチル化酵素阻害剤(TSA)の細胞株への投与では、TSAではTTF-1発現は誘導されなかったが、AZA処理ではTTF-1陰性細胞株の一部にTTF-1 mRNAの誘導がみられた。本研究の結果は甲状腺癌におけるTTF-1発現制御にはDNAメチル化及びクロマチン修飾が関与することを示し、エピジェネティックス機構を介した甲状腺癌分化誘導療法への可能性を示唆した。以上の研究結果は平成21年度に学会発表、英文誌への投稿を行った。
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