研究概要 |
本研究では、ヒト胃癌切除組織標本14例を用いたプロテオーム解析により、非腫瘍胃粘膜と比較し胃癌組織において発現が低下している蛋白として同定されたCYR61(Nishigaki,Osaki, et. al. Proteomics2005)に着目し、(1)ヒト胃におけるCYR61蛋白発現細胞の同定、(2)ヒト胃癌におけるCYR61発現低下メカニズムの解明、および(3)ヒト胃癌細胞の浸潤能とCYR61発現との関連をin vtiro、in vivoの系で検索した。ヒト胃切除標本127例を用いた免疫組織化学法により、ヒト胃粘膜におけるCYR61蛋白陽性細胞は、内分泌細胞であることが形態的に示唆され、蛍光二重染色法により、CYR61陽性細胞は主としてセロトニン産生細胞と一致することが示された。次に、CYR61発現低下メカニズムについて、ヒト胃癌細胞株8株(CYR61高発現株:MKN-1,-7,-28、低発現株:MKN-45,-74,TMK-1,KATO-III,HSC39)を用いてジェネティックおよびエピジェネティックな観点から検索した。全株ともCYR61コード領域に遺伝子変異はなかった。低発現株にピストン脱アセチル化阻害剤を添加したところ、いずれも株もmRNAレベルでの発現量増加が観察された。かかる所見は、ヒト胃癌細胞におけるCYR61発現低下は、ピストン脱アセチル化によるエピジェネティックな異常により生じていることが示された。しかしながら、一部の細胞株ではヒストン脱アセチル化阻害剤による蛋白レベルでの発現量増加が観察されなかったことから、さらに転写後調節後異常の関与も示唆された。以上の結果より、分泌蛋白であるCYR61は、主としてセロトニン産生細胞から分泌され、パラクラインおよびオートクライン的に作用し、胃上皮細胞の増殖あるいは遊走能を制御していると考えられる。エピジェネティックな異常がきっかけとなり、CYR61発現低下が引き起こされ、胃癌の発生あるいは進展に関与していることが示唆された。さらに、CYR61の機能を解析するためにCYR61発現ベクターの構築にとりかかり、CYR61のN末端にFLAGタグをつけたプラスミドベクターを作製した。今後、本ベクターを利用し、細胞増殖能、遊走能や浸潤能の変化を解析する予定にしている。
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