研究概要 |
本研究では、ヒト胃癌切除組織標本14例を用いたプロテオーム解析により、非腫瘍胃粘膜と比較し胃癌組織において発現が低下している蛋白として同定されたCYR61(Nishigaki, Osaki et al.Proteomics 2005)に着目し、(1)ヒト胃におけるCYR61蛋白発現細胞の同定、(2)ヒト胃癌におけるCYR61発現低下メカニズムの解明、および(3)ヒト胃癌細胞の浸潤能とCYR61発現との関連をin vitro、in vivoの系で検索した1(1)および(2)は、平成19年度に既に報告しており、本年度は(3)の検討を行った。FLAGタグを融合させたCYR61発現ベクター(pcDNA3/FLAG-YR61)を構築し、ヒト胎児腎由来細胞株293T細胞に導入し、培養上清中にFLAG-CYR61発現を確認した。このFLAG-CYR61を含む上清とpcDNA3のみ導入した293T由来の上清をそれぞれヒト胃癌細胞株MKN-45に添加し、マトリゲルを用いたインベージョンアッセイをおこなったところ、CYR61蛋白を含む上清の量依存的に浸潤能が抑制された。一方、細胞増殖能には影響しなかった。そこで、胃癌細胞株の浸潤能に関わる因子の代表として知られるマトリックスメタロプロテアーゼ-7(MMP-7)発現を解析したところ、対照群と比較しFLAG-CYR61を含む上清を80%置換した場合、MMP-7蛋白発現量が約20%抑制された。CYR61発現とMMP-7発現の関連をヒト胃癌組織標本を用い比較検討したところ、CYR61高発現例の多くがMMP-7低発現例であり同時にCYR61低発現例の多くがMMP-7高発現例であり、統計学的に有意に逆相関していた(P<0.001)。加えて、ヒト胃癌細胞株8株(MKN-1-7,-28,-45,-74TMK-1,KATO-III,HSC-39)におけるCYR61およびMMP-7発現をウエスタンブロットで解析したところ、8株中5株でヒト胃癌組織標本と同様に両蛋白発現の逆相関が観察された。以上より、胃癌細胞におけるCYR61発現低下は、MMP-7発現を誘導し、結果として胃癌細胞の浸潤能を促進し、胃癌の進展に関与している可能性が示唆された。
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