(以下、糖尿病のみ合併群:D群、高血圧のみ合併群:H群、両合併群:DH群、合併症のない群:N群として記す) 対象症例461例の冠状動脈の粥状硬化病変をAHA分類に従って分類したところ、糖尿病もしくは高血圧の合併のある群では粥状硬化病変の割合が60%蛮超え、特にDH群ではIV型以上の進行病変が34%と有意に高かった。内腔狭窄率は、全461例における比較で、DH群で有意に高く、他のいずれの群に対しても有意差を認めるとともに、N群とH群、N群とD群との間に有意差を認めた。加齢による粥状硬化の進行の影響を除外するために、461例のうちで年齢をマッチングし年齢差を無くした266例においては、DH群では他のいずれの群に対しても有意に狭窄が強かったが、D群とN群との間の有意差は認めなかった。年齢マッチング後の、内膜における石灰化はN群と他の三群との間に有意差があり、またHそ群とDH群との間に有意差があることから、糖尿病と高血圧の両方が影響している可能性が考えられた。年齢マッチング後の内膜におけるマクロファージ浸潤は、D群とDH群ではN群に対して有意に強かった。さらに内膜におけるTリンパ球浸潤密度や酸化LDH陽性率は、糖尿病合併群で高かった。糖尿病合併群の内膜病変の特徴として炎症が強いことが示唆された。なお年齢マッチング後に血清脂質を参照するとDH群がN群に対して、総コレステロールと中性脂肪とが高いという結果が得られた。 以上のヒト冠状動脈の病理組織学的検討から、冠状動脈の内膜肥厚・粥状硬化病変の進展には、糖尿病と高血圧いずれもが関与し、特に両方が合併した場合内腔狭窄や石灰化を強くすることが示された。この糖尿病高血圧合併群の有意な狭窄と進展には血清脂質の高値も関与していると考えられ、メタボリック・シンドロームの各構成要素が粥状硬化症の進展に密接に関わっていることが病理形態学的に示唆された。(797文字)
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