昨年度から作製している剖検例の冠状動脈のパラフィンブロックを用いた。糖尿病があり高血圧症のない症例群(以下糖尿病群)19例(平均69.8歳)と、糖尿病群に年齢と性別を合わせた糖尿病/高血圧の合併のない症例群(以下対照群)34例(平均64.7歳)、計53例を無作為に選出し、合計312箇所の冠状動脈の組織パラフィンブロックを検討に用いた。昨年度からの検討による形態学的所見と特徴、特に粥状硬化の進行度の再評価に加え、ヘムオキシゲナーゼ(以下H0-1)の分布を免疫組織化学的、形態学的に分析した。H0-1は粥状硬化病変のある冠状動脈の内膜には広く発現がみられたが、びまん性内膜肥厚の段階ではほとんど認められなかった。内膜ではH0-1は主としてマクロファージと内皮細胞に発現しており、一部の平滑筋細胞にも発現がみられた。陽性細胞数を光学顕微鏡下に計数したところ強拡視野あたりのCD68陽性マクロファージ数とH0-1陽性細胞数は粥状硬化病変が進行するに従って有意に増加し、H0-1陽性細胞数は浸潤マクロファージ数の増加と相関していた。H0-1陽性細胞数は糖尿病群では対照群に比して有意に多かった。また、糖尿病群では特に高コレステロール血症を伴う症例で内膜における新生血管が対照群に比して有意に多く認められ、これらの新生血管の内皮細胞においてH0-1の発現が強いことが示された。内膜プラークを有する進行病変(AHA分類のIV型病変)においてはプラーク肩部にH0-1発現が有意に高いことも形態学的に示された。 以上のヒト冠状動脈の病理組織学的検討から、粥状硬化病変では、マクロファージと内皮細胞にH0-1が発現しており、特に糖尿病群でその発現が高いことが示された。病変の進行に相関していることや糖尿病群において内膜の新生血管に発現がみられることからH0-1が動脈硬化の進展を多面的に制御している可能性が示唆された。
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