研究概要 |
1968年から1999年の間に593例の直爆被爆者が乳癌組織登録され、被爆距離1km減少毎のハザード比は1.47(95%CI : 1.30-1.66)であった。67例の乳癌組織検体を解析した結果、C-MYC増幅頻度は近距離被爆者群56.5%、遠距離被爆者群18.5%、非被爆者群14.3%であり、近距離群で有意に(p=0.0128)高率であった。HER-2/C-MYC共増幅率は近距離群42.1%、遠距離群6.3%、非被爆者群4.8%であり、近距離群で有意に(p=0.0214)高率であった。多変量解析では、近距離被爆はC-MYC増幅[オッズ比(OR) : 0.59, 95%CI : 0.28-0.99]および共増幅(OR :0.17, 95%CI : 0.01-0.63)の有意な危険因子であった。同様に若年発症はC-MYC増幅(OR : 0.89, 95%CI : 0.78-0.99)および共増幅(OR : 0.79, 95%CI : 0.58-0.96)の、組織学的高異型度はHER2増幅(OR : 1.78, 95%CI : 1.06-3.37)、C-MYC増幅(OR : 1.99, 95%CI : 1.07-4.01)および共増幅(OR : 8.63, 95%CI : 1.77-147)の有意な危険因子であることが判明した。さらに、遺伝子増幅とホルモン受容体発現との間には有意な負の相関を認めた。被爆者には乳癌リスクの上昇に加え、HER-2とC-MYCがん遺伝子の共増幅率が高頻度であることが判明した。乳癌は放射線の関与の知られる固形がんである。様々な腫瘍でがん遺伝子増幅が知られていてゲノム不安定性が関与している。放射線は線量依存性にDNA二重鎖切断を引き起こし、切断されたDNAは修復機構により再結合するが、修復メカニズムはエラーも起こす。そのため遺伝子の再配列や増幅が生じると考えられる。
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