研究概要 |
細胞骨格因子β-tubuhnには幾つかのアイソタイプが存在し, 特にβIII-tubuhn(以下βIII)は, 神経細胞特異的である. しかし多くの卵巣癌や肺癌などではβIIIの異所的発現が見られ, タキソール系抗がん剤に対し抵抗性を獲得する. 本研究ではβIII遺伝子の発現制御因子RESTに注目し, 異所的βIII発現機構, さらに薬剤耐性機構を解明すべく検討した. その結果, RESTは非神経細胞において, 細胞周期依存的(S期からM期)にクロマチンから解離し, それにより産生されるβIIIが細胞分裂に積極的に関与すること, βIIIがユビキチン-プロテオソーム系で, 分解されることを見出した. これは非神経系細胞において, REST-βIIIを軸とした機構が, 細胞増殖に関連することを示す新規知見である. さらにRESTフレームシフト変異をもつ大腸癌細胞株DLD-1において, βIIIの明らかな発現上昇も確認している(投稿中). また, 悪性黒色腫メラノーマは外胚葉由来の神経堤細胞であり, 本来βIIIの高発現が見られるが, 幾つかの臨床検体においてβIII発現量が低いものを見出した. メラノーマ細胞株数種においても同様に, βIII発現量が低いものが存在し, タキソールに対し高い感受性を示した. その機構として, 脱アセチル化酵素阻害剤によりβIIIの上昇が見られることから, クロマチンレベルでのREST-βIII機構の破綻が予想された. 以上の知見は, 一部のメラノーマ患者においてタキソールの有効性を示唆する新規の基礎的知見である(Akasaka K. et al. J. Invest. Dermatol., 2009). また, 卵巣癌細胞でもクロマチンレベルでのβIII遺伝子の発現制御を確認した(Izutsu N. et.al., Int. J. Oncol, 2008). 以上, 本研究においてREST-βIII系が意外にも, 非神経細胞において細胞増殖に関与することが明らかとなった. またRESTやその関連因の破綻がβIIIの異所的発現に強く関連し, タキソール系薬剤の耐性機構に関与することを, 基礎的観点から見出した点が成果である.
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