ヒト大腸がんを組織形態により2つのtypeの間質に分け、それぞれの像を認める部分をレーザーマイクロダイゼクションにより組織を採取し、RNAを抽出し、がん間質の発現解析[Affymetrix社のGene Chip (HumanU133 Plus2.0)]を施行した。得られたデータを遺伝子発現データ解析ソフトウエアであるExpressionistを用い、fold値2倍以上、p<0.05の条件から567遺伝子を選び出し、数種類の抗体を用いて免疫組織化学染色を施行した。昨年報告したCXCL12を用いた臨床病理学的因子の検討をさらに詳細に行い、腫瘍全体におけるCXCL12の発現程度と、腫瘍の浸潤先進部におけるCXCL12陽性のbuddingの個数により大腸がん症例165例を各2群に分けた。高発現群は低発現群に比して、budding多数群は少数群に比して有意に予後不良であることがわかった。またそれら2つの因子を組み合わせたCXCL12高発現・budding多数群は、それ以外の症例と比して、統計学的にさらに強力な予後予測因子となることが分かった。また、その他の候補遺伝子として挙げられたLumican、TLE4などにおいても免疫組織化学染色を施行し、これら分子の間質における発現程度と大腸がんの予後との間に相関があることが分かった。また候補遺伝子の上位に挙げられたが免疫組織化学染色に適応する抗体が手に入らなかったMARCO、EphrinB3、SERPINB5については、モノクローナル抗体を作製した。EphrinB3に関しては免疫組織化学染色が可能な抗体を作製することができ、EphrinB3はがん間質にfocalに発現することが確認された。以上より、がん間質に発現し、大腸癌の予後と相関する重要な分子を多数選出することができた。
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