研究概要 |
Fragile X syndromeは3塩基リピート疾患の一つであり、その保因者では高率(20%)にpremature ovarian failure(POF)を発症する。この疾患におけるPOFの病態解明を目的として、NIDDK(NIH, 米国)で樹立された動物モデル(トランスジェニックマウス、以下Tg)を用いて解析を行った。このモデルはFragile X syndromeの責任遺伝子であるFmr1遺伝子上流UTRにCGGリピートを持ち、世代を経るごとにリピートの増幅がみられることから、当該疾患保因者の病因解析に有用と考えられる。 前年度、検体数を増やして卵巣及び卵胞の形態学的な検索では、初期実験で示唆されたリピート数の増幅に伴う卵胞消費の亢進が再現されなかったことから、breeding assayによる生殖能の検討と分子生物学的手法による解析を行った。 Tgの長期的交配による産仔数の計測、膣スメアと性ホルモン測定による性周期の比較検討を行ったが、有意差は認められなかった。本Tgの中枢神経細胞においては、リピート配列に起因する核内封入体が認められることから、免疫組織化学染色による検出を試みたが、卵細胞及び卵胞細胞に変化は見られなかった。続いて、卵巣組織を採取しDMarrayによる遺伝子発現の亢進と減弱の有無を比較検討したが、増幅されたリピート配列によるFmr1蛋白の発現変動以外には、有意な差異は認められなかった。また、卵胞成長の活性化に関与するFoxo3等の遺伝子発現を、卵胞の初期培養により行ったが差は見られなかった。以上より、本Tgは中枢神経症状のモデルとしては有用と考えられるものの、卵巣におけるPOFの病態解析には適当とは言えないと考えられる。今後は引き続き、確立した卵胞初期培養等によるtransientなCGGリピートの移入により病態メカニズムを検討し、検証していく予定である。
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