本研究の目的は、うつ傾向の増大と抗うつ薬感受性の顕著な低下が認められるCaMKIVノックアウトマウスを用いて、うつ病と抗うつ薬感受性の分子機構を明らかにし、このマウスの新規抗うつ薬スクリーニング系としての応用可能性を探ることである。 平成19年度はまず、抗うつ薬慢性投与によるCaMKIV活性化脳領域を検討した。その結果、検討した全ての抗うつ薬に関して、前脳皮質におけるCaMKIV活性が顕著に増大していた。CaMKIV基質であるCREBタンパク質のリン酸化を定量比較したところ、野生型マウスに比べてCaMKIVノックアウトマウスでは、基礎レベルのCREBリン酸化が有意に低下しており、野生型マウスでは抗うつ薬慢性投与によりCREBリン酸化反応が有意に上昇したが、ノックアウトマウスではリン酸化反応の上昇が観察されなかった。CaMKIやprotein kinase AはCaMKIVのような活性化パターンを示さなかったことから、前脳皮質において抗うつ薬慢性投与によるCREBリン酸化反応の上昇にはCaMKIVが主として関与していることが示された。海馬・扁桃体といった大脳辺縁系では、SSRIと三環系抗うつ薬によってCaMKIV活性が上昇したが、PKA活性も上昇していた。このような脳領域では、これらの酵素が協調してCREBリン酸化反応に関与していると考えられる。 次に、用いた抗うつ薬がいずれもモノアミントランスポーターを阻害することから、CaMKIVがモノアミン類によって活性化される可能性が考えられ、これを検討するため、マウス大脳皮質初代培養神経細胞を調製した。現在、グルタミン酸・セロトニン・ノルアドレナリンによるCaMKIV活性化反応を検討しているところである。
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