本研究の目的は、うつ傾向の増大と抗うつ薬感受性の顕著な低下が認められるCaMKIVノックアウトマウスおよび培養神経細胞を用いて、うつ病と抗うつ薬感受性の分子機構や、モノアミンによるCaMKIV活性化反応や基質タンパク質である転写因子CREBのリン酸化反応の分子機構を明らかにすることである。 平成20年度にマウス個体を用いて行った研究の結果、CaMKIVノックアウトマウスの海馬歯状回における神経新生は、通常の飼育状態では野生型マウスと変わらず生じているが、野生型マウスに見られる抗うつ薬フルオキセチンおよびデシプラミンによる神経新生促進効果が見られなくなっていることが明らかになった。またこれまで使用していたマウスの週齢より高い週齢で、不安の指標となる高架式十字迷路試験を行ったところ、ノックアウトマウスで有意に高い不安傾向が観察された。このマウスが加齢に伴うストレス脆弱性を示す可能性が強く示唆され、うつおよび不安のモデルとなりうる可能性が考えられる。 初代培養神経細胞を用いた研究では、グルタミン酸・セロトニン・ノルアドレナリンによるCaMKIV活性化反応と、CaMKIVの基質である転写因子CREBのリン酸化反応を検討した。グルタミン酸によるCaMKIVの活性化とCREBのリン酸化は急激かつ一時的に生じ、刺激時間10分以降では不活性化された。一方セロトニンおよびノルアドレナリンによるCaMKIV活性化及びCREBリン酸化反応は、グルタミン酸刺激時とは異なる時間経過を示し、上昇した活性とリン酸化の持続傾向が観察された。細胞内シグナル経路を検討した結果、セロトニンによるCREBリン酸化反応は、刺激直後はCaMKIVとMAPKが、またMAPKは基礎レベルのCREBリン酸化も制御していることが示唆された。このように大脳皮質初代培養神経細胞で、モノアミン類によってCaMKIVの活性化とCIEBリン酸化反応が上昇することが、初めて示された。今後セロトニンおよびノルアドレナリンによるCaMKIV活性化とCREBリン酸化反応に、どのような受容体が関与しているのかを特定し、より詳細な分子機構を明らかにしたい。
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