研究課題
難治性固形癌を治療する上で、低用量TGF-β阻害剤の全身投与を併用することが、ナノ粒子内包薬剤を用いた治療法を有効にする可能性が、我々の研究により示唆されてきた。TGF-β阻害剤は、ナノ粒子に対して漏出性の十分でない状態の新生血管を、より漏出性にさせる働きを持つことが示され、そのメカニズムの一端は、血管壁細胞による血管内皮細胞の被覆の減少に基づくことが確認されてきた。本年度は、これらの動物実験系で観察された内容が、ヒト腫瘍組織においてどのように観察され、動物実験の結果が臨床応用可能かどうかを探索することを主な目的として、研究を行った。具体的には、大腸癌原発巣病理標本を対象疾患とし解析を行った。大腸癌は間質量によって、medullary (med)/intermediate (int) /、scirrhous (sci)の3種に分類され、予後はこの順に不良であるという報告がある(Jpn j gastroenter surg, 1995)。本研究では血管内皮細胞のマーカーとしてCD34、血管壁細胞を含む細胞群のマーカーとしてSMA、またタイトジャンクショシ分子claudin-5の発現を検討した。この結果、血管内皮の存在密度はmed>int>sciの順であったが、SMA陽性細胞の存在する血管の密度はsci>int>medであった。さらに、claudin-5の発現はmed, intではほとんど見られないのに対して、sciに分類される腫瘍組織中の血管には観察された。さらに、肝転移を伴う大腸癌についてAvastin (VEGF阻害剤) +FOLFOXに対して反応のあった症例と反応であった症例にし、その組織型を検討したところ、前者の間質量は、後者の間質量に比較して少なかった。翻って、大腸癌動物モデルとして頻繁に用いられるマウス大腸癌C26細胞株皮下移植の系における腫瘍組織は、間質はほぼ存在せず、壁細胞被覆を持たない血管に富んでいる。従って、このモデルにおける知見は、大腸癌全てに一般化できるとは限らず、組織型medに分類される腫瘍にはある程度適応可能であるとしても、それ以外の組織型には適応できない可能性が示唆された。今後の方針として、sciに分類される腫瘍の組織構築に対して妥当な動物モデルの確立が望まれる。
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