これまでに作製した胃癌発生モデルマウス(K19-Wnt1/C2mE)を用いた解析により、粘膜に浸潤するマクロファージとその活性化が腫瘍発生に必要であると考えられた。また、K19-Wnt1/C2mEマウスの胃粘膜では、正常組織へのマクロファージ遊走に関与するケモカインCXCL14の発現が誘導されていることも明らかにされた。そこで本研究は、消化管腫瘍発生過程で認められるマクロファージ浸潤におけるCXCL14の役割を明らかにすることを目的として行なった。 最初に腸管腫瘍自然発生モデルであるApc^<Δ716>マウスと、マクロファージ欠損変異マウス(op/op)との交配実験を行なった。その結果、Apc^<Δ716> ; op/opマウスの腸管腫瘍組織ではマクロファージ浸潤が抑制されていることを免疫染色により確認した。重要なことに、腸管腫瘍病変がマクロファージ欠損により有意に抑制され、直径1m以上に成長するポリープは25%以下までに減少した。したがって、腫瘍組織の成長にマクロファージの存在が必要であることが明らかとなった。次に、CXCL14遺伝子のノックアウトマウスを作製した。相同組換えによりCXCL14遺伝子をヘテロで欠損させたES細胞を用いてキメラマウスを作製し、生殖系列でCXCL14遺伝子欠損が伝達されるノックアウトマウス系統の作製に成功した。CXCL14(-/-)マウスは部分的に胎性致死だが、約50%のCXCL14(-/-)個体は生存した。胃粘膜のマクロファージ浸潤の亢進が認められるK19-C2mEマウスとの交配実験を実施した結果、予想に反してK19-C2mE ; CXCL14(-/-)マウスの胃粘膜にも強いマクロファージ浸潤が認められた。以上の結果から、消化管腫瘍発生にはマクロファージ浸潤が重要であるが、CXCL14の発現亢進は腫瘍組織へのマクロファージ遊走には関与していないと考えられた。すなわち、CXCL14以外のケモカインが腫瘍組織マクロファージ浸潤に関与している可能性が考えられた。
|