個体の発生において、受容体型チロシンキナーゼRETの下流に存在するERKシグナルとSprouty 2が抑制性に制御するERKシグナルがどのような関係にあるかということを検討するため、RETの主要な細胞内シグナル伝達部位であるチロシン1062をフェニルアラニンに置換してシグナルを欠如させたRETY1062Fノックインマウス(RETKIマウス)と、Sprouty 2ノックアウトマウス(sp2KOマウス) を交配してsp2 KO/RETKI二重変異マウスを作出し、RETKIマウスで低形成となる腎臓、腸管神経の表現型を精査した。まずRETKIマウスのヘテロ変異体(W/He)とSprouty2 KOマウスのヘテロ変異体(He/W)を交配して二重ヘテロ変異マウス(He/He)を産出させ、さらにHe/Heマウスどうしを交配して二重ホモ変異マウス(Ho/Ho)を産出させた。Ho/Hoマウスの腎臓はW/Wマウスより小さかったが、W/Hoマウスよりは大きかった。組織学的にW/Hoマウスの腎臓の低形成の原因である発生時における尿管芽のbranchingの減少が改善されていることが確認された。この結果から腎臓の発生においてはSprouty 2の制御するERKシグナルとRET Y1062の下流のERI(シグナルが強く関連していることが示唆された。腸管神経においては、胃ではW/Hoに見られる神経細胞の減少が不完全ながら改善されていたが、小腸、大腸においては改善は見られなかった。このことから、腸管神経の発生においては、RETY1062下流のERKシグナルはSprouty2に制御されるERKシグナルより強い影響力を持っている可能性が示唆された。
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